2006年三越劇場公演 推薦文

 本作は夏目漱石の小説「こころ」を主題にして、主人公の夫人「静(しず)」の立場から深く掘り下げ、その物語りや心の動きを、ひとりのせりふと音楽と唄と踊りで、総合的に表現したものである。
  漱石文学はいろいろの形で演劇やミュージカルに舞台化されているが、本作のように極めてユニークな発想で成功した例は他になく、瑠々子の独り演技も今や「静」はかくあったかと感動させる程に充実してきた。
  先般のバンコク公演の反響でも明らかなように、外国にも通ずる日本的ミュージカルの傑作として推称したい。

ミュージカル評論家 瀬川昌久

2005年公演

静を観るのは2年ぶりでしたが、全体的に完成度がさらにぐっと高まりました。
一般のお客さんがずっと増えていたのも良かったです。
源川さんはもう何の不安もなく、本当に自信と風格が出てきましたね。
歌じたいはもちろんですが、歌をうたっていないときの演技が緻密になったのが素晴らしい。

静という女性への掘り下げがさらに深まって感じられました。
静がお母さんのことを信じて生きてきたというくだりのところでは泣いて聴き入っている人もいました。私も感動しました。
問題点と感じたのはふたつ。
ひとつは、完成度が高かった分、最後にお辞儀して拍手をもらった後での1曲は、音楽的に念押しが過ぎたのではないかと思いました。
それまでに充分感銘を受けているので、余韻を楽しむためにも同じメロディは必要なく、ミュージカルの決まりだとしても、あそこはくどく感じました。

音楽の何も鳴っていない時間があそこから先には必要です。
もうひとつは、いつもの静のかかとの高いブーツで、あの時代ああいう靴を履いていたのかどうか、いつも気になるのです。
さらに今後の課題としては、源川さんが、静という人物像に慣れすぎずにどこまでずっと新鮮な思いを持ち続けられるかですが、でも、これはおそらく大丈夫でしょう。
この役で世界に勝負できるくらいになってください。
とにかく、いまの何でも消耗品にしてしまう時代、何でも即席の結果を求める時代、こんなに時間と手間をかけて一つの舞台(と女優)を育てているケースはないのですから。

音楽評論家 林田直樹
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